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かつて真珠養殖・加工の工場(こうば)として利用されていた海に面する場所を、宿泊を中心とした施設として利活用し、未来の里海を描くプロジェクト。

敷地が面している三重県の英虞湾は、リアス式海岸の立体的な景観が形成されており、その穏やかな海では真珠やアオサなどの海産物の養殖が行われている。
英虞湾はそういった自然と、太古からのそこでの人の営みという持続的な循環によって育まれてきた里海の風景が魅力であるが、近年においては、少子高齢化など様々な要因によってこのサイクルが衰退しつつある状況である。
そしてクライアントもまた真珠を生産、加工、販売する歴史ある企業であるが、志摩に所有するかつての工場(こうば)の土地や建物はその機能を停止していた。
そこで、この土地ならではの人と自然の営みを未来へむけて再構築することと、それらを資源とした観光という形で多くの人に訪れてもらえる場所をつくることを掛け合わせることで、持続可能な未来の里海の姿を描きたいというクライアントの想いを受け、我々は食事・体験・遊び・休息の拠点としての宿泊施設のコアである3つの施設──レセプション/レストラン棟(「海の家」)、ヴィラタイプの2つのゲスト棟(「元工場」、「高台の小屋」)の設計を担った。

工場(こうば)が稼働していた当時、「海の家」は挿核作業を行うため擦りガラスの連続窓を有する一室空間であったが、時代を経て細かく間仕切りされて休憩所のように使われていた。「元工場」は現在の管理人の作業小屋になり、「高台の小屋」は眺望のよい高台から養殖場を警備するためのいわば詰所であったが、周りの木々が育ち埋もれるように建っていた。

我々は全体を通してこういった時間が重層するそれぞれの既存部分を尊重しつつ、海に面するという魅力を最大化するために耐震性を検討した上で開口部を大きくとるなどの周辺環境との対応や、使用する素材や色彩など共通項を紡ぎ、交ぜ合わせることで、一つの物語のような一体感を描き、風景や歴史の中に溶け込んでいくような建築・空間のあり方を目指した。

「海の家」は既存の間仕切り壁や天井を取り除くと丸太の梁が架かっていることが判った。古い記録写真によると工場(こうば)として使われていた当初からそれは隠蔽されていたが、今回、かつてのような一室の空間をつくるにあたっては屋根架構を見せることで数十年という時間がつくりだす深みを表舞台に現したいと考えた。
また、海側の非耐力壁である壁を全面的に取除きそのすべてを引き込み戸とすることによって、施設全体の中心的な役割を担う象徴的な建物として、周辺環境との一体感を強く表現している。
それらとともに、雨漏りしていた屋根葺き材のやり替えのほか、断熱性・耐震性の向上といった性能面の改修も同時に実施している。