対象住戸は、地域に根ざす事業者が数年前に購入した3階建RC造、総戸数12戸の賃貸マンションの中にある。空き住戸が生じるたびにリノベーションを行い、建物全体を、画一的で閉鎖的なプランの集合体から、多様で開かれた生活の場へと、徐々に変容させていく計画である。今回、2住戸を1住戸へと再編成するにあたっては、学生の発案による「地域に開かれたキッチン」というアイデアを出発点に、人々を迎え入れることで暮らしが地域社会と結びつくような住居モデルの創出をめざした。具体的には、対象住戸を大きなキッチンテーブルだけがある空間(室1)と、就寝兼作業スペースとしての大きな空間(室2)、そして両者から使える水廻りのコア、の3つに組み替えた。これらは全体が円環状の連続した空間となっており、2つの大きな空間は、それぞれが専用の入り口を持つことで、生活の場としても、仕事の場としても、フレキシブルに機能する。

通常、キッチンを作るためには使われないが一般的に流通している建築構造木材や接合金物、補強鋼材でキッチンを造作することで、軽やかさと大きさが求められた「地域に開かれたキッチン」を安価に実現している。